会社員をしていた頃、「つい、ぼんやりしてしまう」ことが悩みの一つでした。
私だって、仕事中にぼんやりなどしたくなかったのですよ、決して。
さっさと仕事を終えて早く帰りたいのだから。
なのに! ふと気づくとぼんやりしてしまっている。
口を開けた魚みたいにただボーっとしそうになることもあれば、さっきまで仕事のアイデアを考えていたはずなのに、いつの間にか全然別のことを考えている、なんてこともありました。
その度に「ああー、いかんいかん、またぼんやりしてた。集中せねば!」と自分を鼓舞していました。
しかし、ぼんやりを禁じる度に苦痛が強まり、効率が下がっている気もしていました。
そしてふと思ったのです。
こんなにぼんやりしていて大丈夫なのか、私は、と。
そんなときに書店で目についた本です。
菅原洋平『「ぼんやり」が脳を整理する~科学的に証明された新常識』大和書房(2016)
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どんな本?
タイトルの『「ぼんやり」が脳を整理する』からもわかるように、ぼんやりにも大事な役割があるということを詳しく解説しています。
具体的にいえば、ぼんやりは、脳がひらめきを得る過程においては欠かせない行為なのだそうです。
人間の脳がひらめくときに必要なのは
法則① 気づきをつくる
法則② ぼんやりする
法則③ 自分を外から見る
引用元:菅原洋平『「ぼんやり」が脳を整理する~科学的に証明された新常識』大和書房(2016)p.5
ひらめきを生み出すためのこれら三つの法則について、詳しく書かれているのが本書。
本記事では、三つの法則のうち「ぼんやり」に注目して感想を記していきます。
なぜぼんやりが必要なのか
ひらめきに関わっているのが、次の三つの脳内ネットワーク(自分の理解のため、ざっくり書いています。詳しい説明は本書をご確認ください)。
①実行系ネットワーク
集中したり、注意したり、覚えるときなどに活用
→仕事に取り組んだり、アイデアを練ったりするときに使う
②デフォルトモードネットワーク
記憶したり、記憶を整理したり、記憶を検索したり
→ぼんやりしているときに活発化
③セイリアンスネットワーク
実行系ネットワークとデフォルトモードネットワークの切り替えを行う
ひらめきまでの流れとしては、次のようになります。
実行系ネットワークを使用して知識を入れる
↓
デフォルトモードネットワークによって知識を整理、記憶したり
↓
実行系とデフォルト、二つのモードを両立させる(メタ認知の状態)
情報収集とまとめ作業が同時に行われる
※最終的にひらめくためにはメタ認知の状態が必要
↓
ひらめき
三つのネットワークをバランスよく働かせることによって、ひらめきの必要条件が揃う、というわけです。
つまり、頑張る系の実行系ネットワークばかり使用してもNGということ。
例えば、「記憶力が落ちた」と感じた場合、覚えることを強化しようと記憶トレーニングなどをしがちですが、これはNGということ。
脳の働きを胃腸の働きに例えると、覚えることを強化しようとするのは、胃の調子が悪い(記憶力が落ちた)から、消化能力(記憶力)を上げるために、たくさん食べて(多くの情報を入れて)鍛えようとしているのと同じこと!
胃の調子が悪いのにたくさん食べてはますます悪化しますよね…。
記憶力に関しても同じです。
脳に情報が溢れているのに、さらに覚えようとしても、吸収できないわけで。
この例えはすごくわかりやすいな、と思いました。
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悪いぼんやりはヒューマンエラーやネガティブ思考を招くので注意!
ぼんやりは必要な行為ではありますが、してはいけない「悪いぼんやり」もあります。
それはヒューマンエラーの原因となる「ぼんやり」です。
とりわけ、運転中とか、高所作業中とか、実験作業中なんかにぼんやりが起こってしまうと、重大な事故につながりかねないので、要注意です。
どうして大事な場面でぼんやりが起こってしまうかというと、それまでに実行系ネットワークを使いすぎているから。
あらかじめ戦略的に良いぼんやりを組み込んでおくことが大事なんですね。
また、事故につながるような場面でなくても、悪いタイミングで起こるぼんやりは、ネガティブな思考を呼び起こしてしまいます。これも、行き詰ったのに粘って考え続けたせい。
悪いタイミングでデフォルトモードネットワークが働いてしまう状態の例として、強迫神経症が挙げられるとのこと!!
これには驚きました。
仕事が忙しかった会社員の頃、私はまさに強迫神経症に悩まされていたのです。
【実体験】 ぼんやりを禁じた結果、強迫性障害になった話
私が会社員をしてた頃のことを振り返ってみると、仕事ばかりする=実行系ネットワークばかり使う、という状態でした。
しかも、「ぼんやり=悪」と思い込んでいた私は、自分に「ぼんやり」を禁じていました。
結果、デフォルトモードネットワークが活発化する時間が少なく、インプットした情報が定着しなかったんですね。
すると、あれもできてない、これも…と焦るようになり、ますます頑張ろうとして、さらに実行系ネットワークを無理に働かせてしまいます。
適切なタイミングでデフォルトモードネットワークを働かせていないわけので、悪いタイミングで「ぼんやり」が出てしまう。
すると、ものすごいネガティブなことが浮かんでくるんですよ。
私の場合は、「病気になるのではないか」という恐怖感が凄まじかったです。
それで、病気にならないために、手をしょっちゅう洗ったり、公衆のものを避けたり、など合理的でない行動が増えていきました。
合理的でないことはわかっているのに、(病気を避けるために)やらねばならない自分ルールが増え、ますます時間がなくなっていきました。
脳のエネルギーは限られているので、疲れて疲れてどうにかなりそうでした。
実行系ネットワークばかり使って、しかも「ぼんやり」を自分に禁じたがために、このようなことが起こっていたのだと今になって理解しました。
悪いぼんやりを避けるには、感情が起こる前、情動(身体の変化:呼吸が浅くなる、心拍が速くなる、目が乾く、耳が詰まるなど)のタイミングでぼんやりを始めるべし。
ただ、会社などでの仕事中だと、「ぼんやり」するのはどうしても気がひけてしまいますね…。
オフィス内を少し歩いたり、お手洗いに行ったり、と工夫が必要かもしれません。
90分作業したらたとえ途中でも一旦区切って、ぼんやりしたりするのが良い、とのことなので、あらかじめ「90分はしっかり集中します。そのかわり、その後10分休みをいただきます」と宣言しておくのもアリかもしれませんね(職場の雰囲気や仕事内容にもよりますが)。
おわりに
「ぼんやり」をものすごく悪者だと思ってしまっていましたが、脳にとっては必要だったのですね。
どんなことでも、「自然にやってしまう」こととか「そうなってしまう」ことというのは、何かしらの意味があるのだろうと思います。
それを「こうあるべき」という固定観念とか、誰かに押し付けられた常識などによって無理やりねじ伏せようとするから、最終的に芳しくない方向にいってしまうのだろうな、と思いました。
なお、本書は、タイトルこそ「ぼんやり」ですが、ひらめくための具体的な方法も多々記載されています。
(ひらめきを生み出す法則を伝える目的で書いた、とまえがきにもある)
アイディアに行き詰っている方には参考になると思います。
「ぼんやり」が脳を整理する - 株式会社 大和書房 生活実用書を中心に発行。新刊案内、書籍目録、連載エッセイ、読者の広場。
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