先日書店をぶらぶらしていて、目に留まった本。
菅野仁(文)、たなか鮎子(絵)『愛の本 他者との〈つながり〉を持て余すあなたへ』ちくま文庫(2018)
「他者との〈つながり〉を持て余すあなた」って……私のことじゃないか、、、と思い、購入しました。
著者について
著者は菅野仁氏(故人)。
代表作は『友だち幻想』でしょうか。
私は読んだことがないのですが、ベストセラーのようで、こちらも気になる。
『愛の本 他者とのつながりを持て余すあなたへ』は『友だち幻想』以前の 2004年に書かれたもので、2018年に文庫版として復刊されたもようです。
帯に「入手困難だった幻の名著、文庫化!!」とあります。
(『友だち幻想』が売れたから、って感じなのですかね)
どんな本?
タイトルには『愛の本』とありますけど、私の印象では、「自分の生き方を考える本」というか、「幸せな生き方を目指す本」という感じがしました。
若い人(思春期の多感な年代)をメイン読者として想定しているようで、優しく語りかけられる感じで読みやすいです。
私も十代後半くらいで読んでいれば……
とも思いますが、大人が読んでも決して遅くはないです。
大人であれば、年齢や経験を重ねながら、自分で考えてきた「幸せ」や「善く生きるとは?」の答え合わせ(※)みたいな感じで読めると思います。
(※)どれが正解・不正解云々ではなく、自分の考えと著者の考えを照らし合わせて、そこからまた何か考える、という意味です。
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本書のポイント
本書の主題の一つは、「自分にとっての幸せは何か」「どういう生き方をしたら幸せなのか」と考えるということだと思います。
幸せは、人によって異なりますが、一定の条件を抽出することはできる、と著者はいいます。
それが、
・自己実現をもたらす活動
・他者との交流
です。
簡単に言うと、「自分にはこれだ!!」というものを見つけて継続し、それを通じて他者とつながっていくことで、幸せな生き方に近づくのではないか、ということです。
本書では、このことについて、「他者とは」や「社会とは」等の言葉の定義も含めながら、詳細に解説されています。
また、「他者との交流」を考えるとき、繊細な人・傷つきやすい人は悩んでしまうケースが多いのですが、そういう人がどうしたら一歩踏み出せるか、ということも考えられています。
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感想
自分にとっての「これだ!」を見つけるのは難しい
著者のいう「ほんとうに好きになれることを見つける、それを通して人とつながる」という主張は、私も本当に同意です。
10代の頃から「幸せとは?」みたいなことを考えつづけてきて、同じような答えにたどり着きました。
わかっているなら自分でさっさと実行すればいいのですが……しかし。
「ほんとうに好きになれることをみつける」って、案外難しいんですよね。
子どもの頃に「自分にとってのほんとう」を見つけられた人は、実に幸運だと思います。
ある程度いろんなことに手を出してみないとわからないですし、家庭環境もありますし、「運」という要素も大きいですよね。
「これだ!」というものを見つけたうえで、さらに、諸々の条件(親の理解、環境、本人の資質や基質など)が揃ってやっと、結果に結びついたりするものだと思います。
(若くして世界的に活躍する人はこのパターンが多いのではないかと)
でも、みんながみんな、そうはいかないですよね。
仮に「自分にはこれだ!!」を見つけられても、家庭の事情などで続けられないこともあるでしょうし。
あるいは、ほんとうに好きなことではあるけれど、とびぬけた才能はない(仕事にできるほどではない)、という場合だってあるでしょう。
たとえば音楽や美術などの芸術分野は、そもそも食べていける人の数が少ないですから。
「仕事にできるほどではないけれど、すごく好きなことだから一生続けたい」と思えれば、それはそれでアリなんでしょうね。
「結果関係なく楽しい」のであれば、たとえ趣味であっても、「楽しい」時間が増えるわけですから、結果的に、人生の「楽しい」割合が増えますから。
一番困惑するのは、いつまで経っても「自分にとってのほんとう」が見つからない(わからない)ことかもしれません。
私もそうなんですけど。
子どもの頃、親の顔色をうかがっていたり、価値観を押し付けられていると、「親がOKするもののなかで自分にしっくりくるもの」を選ぼうとするんですよ。
でも親と感性が違えば「親がOKすること」の中に「自分の好きなこと」がないんですよね。。。
「〇〇やりたいけど……親が気に入らないからダメだ」というのがいつのまにか定番化していって、そのうち「〇〇やりたい」すら完全消失してしまうんですよね。
さらに悪化すると、何をやってもむなしくて、結果的に人生の質が下がってしまうんですよ……。
と、過去を嘆くだけではアレなので、今からでも見つけたいとは思っています。
平均寿命まで生きると仮定すれば、まだあと何十年かあるので。
「自分にとってのほんとう」を見つけるコツとしては、考えているだけではダメで、やっぱり「探る姿勢をもつ」「行動する」ことがポイントになってくるのでしょう。
仮に見つからなくても、探す姿勢自体が幸せに近づくあり方では、と著者はいいます。
(著者自身も、好きなことはあれど、「これだ!」というものは本書執筆時点ではなかったみたいです)
自分らしさを発揮できる活動をいろいろと試す中で〈生のあじわい〉を深めようとするあり方も、幸せを追求する一つの形なんじゃないかな。
p.62
大事なのは、それぞれのやり方で「自分にとっての〈ほんとう〉」を探し当てようとすることなんだとぼくは思う。それにはやはり、〈いま、ここ〉の自分のあり方をとらえ直そうとする思索的態度をベースにしながらも、考えあぐねているだけにはとどまらず何か自分から行動を起こしてみること、これが大切になってくる。
p.62
(行動することについての関連記事)
「あこがれ」と「現実」を共に手放さない
「ほんとうに好きになれるもの」を探す過程において、自分にとっての「これだ!!」は、絶対的にわかるものなのだろうか、、、とふと思いました。
というのも、私は、最初のうちはわりと何でも楽しめるのですが、けっこうすぐ飽きてしまうので、「これだ!」を見逃しているのでは?と心配になるのです。
なぜ飽きるかというと、「結果」を求めてしまうからなんですが。
へたくそな状態に耐えられないというか。
明らかなる「成果」が欲しい、というか。
これに関連して、参考になりそうなのが、「今の自分」と「理想の自分」、両方手放さない、ということ。
たぶん私は「理想の自分」のウェイトが大きすぎるので、「へたくそな自分」に耐えられないのだろうと思います(別の言い方をすると、自己肯定感が低い)。
何をやるにも、常にプロと比べていれば「あーダメだ」となりますもんね。
だからこそ、「いまここにいる自分」も手放さないでいこう、と著者は言います。
自分に課せられているある種の「制限」(自分の知的・身体的能力、経済力、住んでいる場所、家族との関係などいろいろ考えられる)と折り合いをつけながら、幸福を求めていこう、〈生のあじわい〉を深めていこうとする意欲を保ち続けるだけの心の柔軟性を失わないことだ。
P.63
これを読んでいてフランクルの『夜と霧』を思い出しました。
(収容所生活の中でも、希望を失わない人がいた、的な。
諦めず、幸せを追求しようとする姿勢自体が大事なんですね)
おわりに
「これだ!」というものを早く見つけなければ、と無意識のうちに焦っていた気がします。
なぜ焦っていたかというと、「もういい歳だし、時間がない」と思っていたからなんですよね。
自分が楽しめればいい話なのに、「時間がない」と焦るということは、結局のところ「結果を出さなくちゃ」と思っていたのだと気づきました。
これまでに(目に見えるような)結果を出したこともあり、しかしそれでも満たされなかったというのに、いまだに「結果を出す」ことにこだわっているんだな、と自分の心のクセに改めて気づきました。
結果を出すことが歓びである人は、もちろんそれを重要視して良いと思うのですけど、私は苦しくなるタイプなので、ほどほどに、というか「結果が出ないから自分クソ」みたいな短絡的思考はやめたいと思います。
要するに、ありのままの自分を認められていないので、何かものすごい「結果」をゲットすることによって安心しようとしているんですよね。。。
関連の本を何冊も読んでいるのに、なかなかスパッとは解決しないのが現実。
複雑に絡まった糸は、ほどいてもほどいても、跡がついていますからね。
まあ、自分を客観視・分析はできるようになっているので、前進はしているから、よしとしよう。
ちょっと長くなりそうなので、ここで一旦切り上げます。
本書は、傷つきやすい人や繊細な人が、他者とどうつながっていくか、ということも大事なテーマですので、そのあたりのことは次の記事で書きたいと思います。
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