東田直樹さんのことを知ったのは何年か前のテレビ番組でした。
重度の自閉症で、発話ができない東田さん。
突然奇声や雄叫びを上げたり、不可解な行動をとることもある。
しかし、文字盤ポインティング(文字を指し示す)やパソコンを使えばコミュニケーションがとれる方です。
テレビでは文字盤を指して意思表示されていましたが、一文字一文字指し示すので、結構時間がかかっていたように思います(ご本人も本の中でとても疲れると述べられています)。
一音一音を懸命に絞り出す姿がとても印象に残っています。
ともあれ、多大なる衝撃を受けました。
言葉を発せない=思考を持たない
と思い込んでいたからです。
発話ができないだけで、意思や思考を持っておられるのだ、と理解したとき、己の思い込みの危うさを実感せざるを得ませんでした。
そんな東田さんのエッセーがこの度文庫化し、カドフェス2018の特設コーナーに並んでいました。
東田直樹『飛びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること(角川文庫)』KADOKAWA(2018)

跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること (角川文庫)
- 作者: 東田直樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/06/15
- メディア: 文庫
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感想
彼が時間をかけて絞り出した言葉たちがすでにまとまっているので、読み手のスピードに合わせ、流れるように入ってきます。
とても真摯で、本質を突くような、「ハッ」となる文章がつづられている。
テレビを通じて彼の実像を知っているのにも関わらず、「本当にご本人が書いたのだろうか……」と思ってしまうほどの内容です。
エッセーの途中に挟まれているインタビュー(インタビューには、ここでいきなり立ち上がった、ひとりごと、そわそわしだした、など東田さんの様子も併せて記載されている)を読んで、ああ、やっぱりこの人が書いているのだ、と認識したのですが。
本の中で、東田さんは奇妙な行動をとる理由なども解説されています。
例えば突然の雄叫びについて。
自閉症の僕が、ぞっとする体験をした時、どのような反応をすると思いますか。
その瞬間は、意外と平然としています。何かが起きて、周りの人が大騒ぎするまでが、ひとつの場面となって、記憶にインプットされるのを待っているかのように、じっとしていることもあります。
そして、この体験が怖かったという感情ごと、思い出の引き出しにしまわれます。引き出しに鍵はなく、その後ふとしたはずみで中身が飛び出し、今起こっているみたいに、僕の頭の中で再現されるのです。
そのとたんに、リアルタイムでは感じることのなかった恐怖が現実のものとなり、僕は雄叫びを上げます。
引用元:東田直樹『飛びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること(角川文庫)』KADOKAWA(2018)p.68-69
怖かったという感情を突然リアルに思い出して、雄叫びをあげてしまう、ということなのですね。
不可解に見える行動にも、ご本人からすれば理由があるのだ、と納得しました。
本書では、雄叫びだけでなく、電子レンジの扉を何度も開け閉めしてしまう理由や、回転するタイヤをずっと眺め続けてしまう理由などにも触れられています。
こういう部分を言語化できるのはすごいし、いろんな人の役に立つでしょう。
不可解な行動にも理由があると知っているだけで、健常者と呼ばれる側も楽になるのではないか、と思うのです。
わからないからなんとなく怖い、という部分も大きいと思うので。
ハンデがあろうがなかろうが、誰かに受け止めてもらいたい、という気持ちは皆同じなんだな、と実感したのはここ。
どんな自分も受け止めてもらえるという体験ができたからこそ、僕は壊れずに生きてこられたのでしょう。
引用元:東田直樹『飛びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること(角川文庫)』KADOKAWA(2018)p.102
自分の世界を広げてくれる一冊だと思います。
若い人に読んでほしい、と思ったので、カドフェスはいいチョイスしているなぁ、とも思ったのでした。
跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること 東田 直樹:文庫 | KADOKAWA
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