作家の米澤穂信氏が編集した短編集『世界堂書店』より。
2、3、4番目に収録されている短編の感想。
※あらすじ含みます
広告- - - - - - - - - -
「破滅の種子」ジェラルド・カーシュ(西崎憲 訳)
ただのガラクタを売るのがうまい古物商が、印章のついた指輪を「破滅の種子」(金銭を伴う売買は問題ないが、贈ると不幸がふりかかる)としてでっちあげ、最終的に「嘘から出たまこと」みたいになる話。
読んでいるうちに、「破滅の種子」がだんだんリアリティを持ち始めてちょっと怖くなりました。
昔の呪詛とかまじないって、こういう感じで成立していったのかな、なんて思ったり。
「思い込み」に「たまたまの実績」が加わると、「確固たる事実」みたいになっていってしまうんですよねぇ。
で、「思い込み」が加速していって……より強固な事実に、みたいな。
ちょっとお話の本質からは外れるかもですが、文化って、人がつくっているんだよなあ、と改めて思いました。
「ロンジュモーの囚人たち」レオン・ブロウ(田辺保 訳)
外からは幸せそうに見えた夫婦が自殺。
知り合いだった語り手が推察するに、彼らはロンジュモーに移り住んでから、すべての電車やバスに乗り遅れるという現象に15年も悩まされていたらしい。
そのせいで人間関係はことごとくダメになり、旅行にも行けず、まるで囚人だった、という話。
100%遅刻はあまり現実ではないとはいえ、「まあ、なくはないよね」と思いました。
遅刻とかドタキャンを繰り返して自己嫌悪に陥っているうちに「時間通りにいけない」の呪い(強固な思い込み)に自らかかりにいってしまうのはありそう。
(著者は独自の宗教観を持っていたらしいので、悪魔のしわざ的なことを言いたかった模様だけれど)
「シャングリラ」張系国(三木直大訳)
黒石星の石は、石だけれど生命を持っている。
麻雀を教えたら、数十年後に黒石は麻雀牌になり、社会組織を形成。
その誘引力で、宇宙空間すべての石が麻雀牌になってしまうのも時間の問題である(地球も)という話。
最近のAIの隆興にも当てはまる部分があるのかもなあ、と思いました。
心をもっていないけれど、会話もできるし……生殖機能をもっていないけれど、増殖していくだろうし……人間の知能を越えるのも時間の問題と言われているし。
まあ、すべてのシステムがAIになっていくよなあ、普通に考えたら。
人間とどう共存していくのでしょう。
そのうちAIが人間の心理を操って支配して、しばらくしてからその支配に人間が気づいて暴動を起こすみたいなこともあり得るのかな。
おわりに
この3つだと「破滅の種子」が好きでした。
けっこうあるんですよね、「そう思っているとほんとうにそうなる」やつ。
「引き寄せ」と言ってしまうと急に怪しくはなるんですが。
ともあれ、いい意味でも悪い意味でも、思い込みって効力があるよなあ、と。
「この人に嫌われているに違いない」と思って、警戒しながら接していると、だいたい感じ悪いので、本当に嫌われたりしますからね。
広告- - - - - - - - - -